葬儀の式場や斎場などに掛かっている、白と黒の縦縞の幕のことを鯨幕（くじらまく・げいまく）といいます。
普段の生活ではあまり目にすることもなく、この幕の名前が鯨幕だということを、今初めて知ったという方も多いと思います。
このページでは、そんな鯨幕の由来や歴史、意味や役割や基礎知識をじっくりとご紹介いたします。
目次
鯨幕とは？
鯨幕は、白と黒の布を交互に縦に縫い合わせた、幔幕（まんまく）の一種です。
幔幕とは、横長の幕で、壁や衝立を作らなくても空間を仕切ることができる横長の幕で、当初は軍陣、現在では式典や祭礼などで、一定の場所を区切るために、催事やイベント会場の周りへ張り巡らして使用します。
鯨幕は別名「蘇幕」とも呼ばれ、現代では、お通夜や告別式などの弔事に用いられることが多いです。
鯨幕の名前の由来
鯨幕の名前の由来については、有力とされる2つ説があります。1つ目は、体の背中側が黒く、腹側が白いクジラの体の模様に似ていることから名付けられた説、2つ目は、クジラを切り分ける際に黒い皮を剥ぐと、その下には白い脂肪がついているため、そう名付けられたという説です。
このような説からも、昔の日本人にとって鯨が如何に生活に根付いた存在であったということが想像できます。
鯨幕の歴史と使われるようになった経緯
鯨幕のルーツは、「浅葱幕（あさぎまく）」だと言われています。
浅葱幕は、壁や衝立を作らなくても空間を仕切ることができる横長の幕、幔幕の一種で、薄い藍色や水色に近い色味の、日本で古くから使われていた浅葱色と白色の布を交互に縦に縫い合わせた幕のことをさします。当初は軍陣を区切るために使用されていた浅葱幕ですが、既に江戸時代頃からは弔事で使われていたと言われています。
やがて時が経つに連れて、西欧文化の影響で「弔事=黒」という認識が世間一般的に定着した昭和の初期頃に、当時の葬儀社さんが弔事で鯨幕を使うようになったことが切っ掛けで普及したとされています。
尚、江戸時代頃までは、黒色は高貴な色とされており、結婚式などの慶事でも使用されていたといわれています。
鯨幕の役割
鯨幕は、主にお葬式やお通夜などの葬儀を執り行う家や会場で、壁などの周囲に張る目隠しとして使用されます。鯨幕を張ることで、生活感がある日常的な場を隠して、非日常的で厳粛な雰囲気の葬儀会場に演出することができるのです。
他にも鯨幕を張ることで、盛り塩やしめ縄と同じように、空間を清めて結界を作り、「浄」の場と「不浄」の場を分けたり、葬儀が営まれている場であることを周囲の人々に知らせる役割などもあるとされています。
ただし、鯨幕を使用しない地域・宗派があるなど、各々で習慣が異なるため、使用する場合は事前に菩提寺やご親族の方へ相談することをオススメします。
鯨幕と類似した幕
空間を仕切ることができる横長の幕、幔幕には鯨幕以外にも様々な種類が存在し、色によってそれぞれ意味や用途が異なります。ここでは代表的な紅白幕・青白幕（浅葱幕）・五色幕をご紹介いたします。
紅白幕
紅白幕は「おめでたい」「縁起が良い」とされる式典で主に使用されています。このような使われ方が定着したのは、昭和初期以降だといわれています。
◎紅白幕の使用シーン
- 入学式
- 卒業式
- 成人式
- お祭り
- お正月
青白幕（浅葱幕）
青白幕の別称である浅葱幕については、前の項目でも言及いたしましたが、一定の場所を区切るために、催事やイベント会場の周りへ張り巡らせる幔幕の中でも最も歴史が古く、日本では昔から様々な用途で使われてきました。鯨幕の原点である青白幕は、現在でも皇室の行事をはじめ、地域によって用途は様々ですがあらゆる場面で使用されています。
◎青白幕（浅葱幕）の使用シーン
- 皇室の園遊会や新年祝賀の儀
- 歌舞伎の振落しと振りかぶせといわれる舞台の場面転換
- 収穫に関連した祭事
- 葬儀など
- 地鎮祭や上棟式
五色幕
五色幕は仏教の寺院の壁などに掛けられ、仏教の寺院であること、また、釈迦如来の説いた教えを広く宣べて流布させることを表します。主に寺院の落慶時の法要や、灌仏会（花まつり）などの年間の大祭で、寺院の壁面や堂内の入り口に掛けられます。尚、この5色は、インド哲学の五大や中国の五行思想に基づいて選定されているといわれています。
◎五色それぞれの意味
- 黒（紫）：仏陀の袈裟の色とされ、忍辱を表します。
- 白：仏陀の歯の色とされ、清浄を表します。
- 赤：仏陀の血液の色とされ、精進・慈悲心を表します。
- 黄：仏陀の身体の色とされ、確固とした金剛を表します。
- 青（緑）：仏陀の髪の色とされ、心の落ち着き・禅定を表します。
おわりに
近年では葬儀の形式が多様化しており、鯨幕を使用しないケースも増えています。
近代的な斎場や家族葬などでは、白や落ち着いた色合いの無地の幕を使用したり、装飾自体をシンプルにする場合もあります。
歴史・伝統がある鯨幕は現在でも広く使われていますが、葬儀の場における幕の選択肢が広がっているということも事実です。
葬儀で鯨幕を使う場合、もしくは別の幕を使う場合でも、故人を偲び、厳かに見送りたいという人々の想いさえ込められているのであれば、細かい幕の仕様については、そこまでこだわる必要がないのではないかとも思います。
キラメックでは、鯨幕・紅白幕・青白幕（浅葱幕）はもちろん、お客様のお好みのカラーでオリジナル幕をオーダー製作いたします。まずはお気軽にご相談ください。
